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2017年度 研究報告 (立教大学社会デザイン研究所)

「共創」-プロセスを他者と共に創りだす―実践と事例の研究

 

 

【概要】

 「共創(co-creation)」という言葉は、現在、多様な主体が対話をベースに出会い新たな価値を創造していく時の形態やテクニックを示す時に用いられることが多いが、筆者が「共創」を研究テーマとして取り組んできた背景には、障害、貧困などの問題に直面しながらも、すなわち、どのような環境にあろうとも、力強く、創造的に、みずからが生きる世界を他者と共に創りあげていく活動がすでにあり、その形態やテクニックではなく、その「プロセス」を可視化する意図があった。従来の支援モデルとの対比で、その「プロセス」を、「共創」モデルとして概念化することで、支援領域に限らず、社会変動のただ中にある私たち一人一人が強く創造的に生きていく上で有効な概念を提示することを試みたものである。つまり、「共創」の研究では、常に、個人レベルで他者との間で起こる個人間の関係性の変容と、それが社会の中にどのような具体的な動きを生み出すかという、双方(個人と社会)の変容のプロセスを研究対象とすることは必須のことであった。

 2015年に社会デザイン研究所の研究員となったことを機に、研究活動においても「共創」をベースとして社会の中の具体的な「プロセス」創りの現場と行き来する形を模索してきたが、それを実感するあり方にたどり着けずにいた。そこで本年度は原点に戻り、「社会デザインにおける『共創』を中心に据えた研究活動のあり方」自体をテーマに様々な試みを行う年と位置づけ、研究活動の再編成を行った。それにあたって拠り所としたのは、2016年度に福島県いわき市の未来会議の事務局を担う女性にインタビューした後の意見交換の場でたどり着いた、「人は、自分の人生の当事者にしかなれない」という言葉である。そこで、「いかにして社会課題(たとえば、障害者や高齢者の暮らし、原発事故により生活が一変した人々がいることなど)を多くの人の自分事にしていけるのか」という啓蒙・啓発型の問い立てを改め、「すでに当事者である事柄から、いかにして、社会課題との関わりを見いだし生きる世界を構築していくのか」という個々人の「当事者性」に焦点をあてた問いを中心軸に据えることにした。そして、これまでの事例研究に加え、新たに、自分自身の当事者性を見つめ、自分自身が当事者であるところと他者が当事者であるところで出会うことから生まれる動きに自分自身を投入し、それを音声、文言、映像などで記録していくという試みをはじめた。また、研究会の開催方法においても、参加者が、より当事者性を持って関われる場になるよう見直しを行った。

 本年度の新たに始めた試みについては記録を収集している段階にあるが、社会デザイン研究における「当事者研究」のような、一つの手法となり得る可能性を感じている。

 

 

【活動内容】

1. 研究会活動(共創研究会)

これまで月1回定期開催をしてきたが、4月からは、分野・関心別の小グループごとの研究会活動を行うこととした。グループごとの研究会は定期開催を前提にするものではなく、研究会終了後に、次回を開催するかどうか、どのテーマでやるか等を決定するというようにして、グループ内に生じた内発的な動きに従うものとした。

 (1)分野・関心別グループの内訳 

   これまでの参加者の関心領域を元に4つのグループに分けた。

   ① 障害、高齢、貧困との共創

   ② 企業社会の課題、葛藤       

   ③「共創」のダイナミズム・場・人間探究

   ④「共創」的実践と経済活動

 (2)上記以外のテーマ

   上記以外のテーマでも、研究や実践における課題の相談や、メンバーと意見交換を

   したい時は研究会にいつでも持ち込めることとした。

 

2.事例研究

(1)水俣、福島における実践活動の調査

「いのちと暮らしを守るソーシャルワーク」の理論構築に向けて、熊本県水俣市の患者支援や環境教育の状況と福島県飯舘村の避難者の状況について聞き取り調査および参与観察を行った。(公益財団法人上廣倫理財団平成28年度研究助成を受けて実施。研究タイトルは、「生活困難状況にある者との『共創』の基盤となる生命観の探究―近代的個人概念に立脚した人権の保障に基づくソーシャルワークを超える 『いのちと暮らし』を守るソーシャルワークの理論構築にむけて―」)

 

(2)千葉県松戸市の「松戸あんしん電話協議会」の参与観察

千葉県松戸市の、自動電話「あんしん電話」をツールとした住民主体の地域見守り活動を推進する「松戸あんしん電話協議会」の参与観察を行った。月1回の推進会議への出席の他、事務局が行っている調査研究事業へ協力した。

3.  実践的研究

本年度の新たな試みとして、自分自身の当事者性と他者の当事者性が出会ったところから生まれた活動に自分自身を投入し、その活動が創られていくプロセス、自分自身の内側に起こったことなどを、音声、文言、映像などで記録することを行った。

(1)「東京縁坐舞台の一味」の活動

縁坐舞台は大阪の劇団ザ・フェンスを率いる橋本久仁彦氏が創りだした即興芸能である。2017年2月、東京でも縁坐舞台の本番をやりたいという思いを持った者が集まり、座長不在のまま、月1〜2回の稽古をはじめた。運営方法や稽古の仕方も集まった者たちで意見を交わしながら独自にやり方を模索し、8月には橋本久仁彦氏を迎えて、千葉県松戸市の古民家で講演を行った。現在11名が連なる。縁坐舞台については、これまで「共創的空間」として、集団心理療法、円坐と並んで「場(フィールド)」の作用を研究する対象として捉えてきたが、本年度は、2月以降プロセスの記録と自らが関わることで体験していること(これまで研究対象としてこなかった部分)の記録の収集を行った。

(2)「地蔵の会」の活動 

葛飾区青戸やくじん延命寺を拠点に、2016年4月から、お寺を現代社会の都会に暮らす者の現実にあった祈りを持ち込める場として地域に開いていく活動をしている。月1回のお地蔵さんと一緒に座る円坐と、感じる力、ただありのままに観る力(胆力)をつける「てらたん企画」を運営。当初「都会の祈り」という言葉をキーワードにすること以外、手法や目標もはっきりしないまま手探りではじめた活動であるが、リピーターも増え、「他ではなかなか話せないことが話せて、聴くことができる」というフィードバックをもらうことも増えた。現在、お寺の文化的伝統的機能をいかした持続可能な活動形態(人々の霊的(スピリチュアル)なニーズに合ったコミュニティ活動と循環型経済活動を統合していく形態)を模索する段階に入っている。

(3)嬬恋「共創」プロジェクト

都市近郊に住む者が、心の危機や生活上の危機(自然災害等)の時に行ける場所を、群馬県嬬恋村在住の建築家の協力を得ながら賛同者と共に創るプロジェクト。本年度は賛同者(リピーター)が6組(18名、延べ51日)が訪れ、薪割りや山菜摘みなどの自然体験の傍ら、大工仕事や庭仕事を手伝っていった。将来的には、貧困等様々な理由から旅行に行く機会のない子供たちが自然体験をすることができる宿泊設備を整備し、寄付をはじめとする「志金」で運営していくしくみの構築を目指している。

 

【成果】

1.研究会活動(共創研究会)

継続を前提とせず、グループの内発的な動きに従った研究会の運営を実験的に試みた結果、下記(1)のように、当初設定した4つのグループのうち②と④では、毎回研究会の終わりには、次回話したいテーマがうまれ、参加者全員の希望で次回を設定するという内発的な動きから継続することができた。また、(2)のように、いくつかの相談や提案が持ち込まれ、①と②の企画が生まれた。

(1)4グループの研究会の開催記録

  ①障害・貧困との共創

   1回 5月12日、テーマ「社会的事業」、栗田陽子さん(ハビタット・フォー・ヒューマニティ)

  ②企業社会の課題、葛藤

   3回(6月4日、9月3日、11月18日)固定メンバー3名と単発参加者で、競争原理に基づく企業社会

   で働くメンバーが抱える葛藤と希望するあり方を言語化していく作業や、山積する雇用問題を抱

   える現代を歴史的観点から把握し、その状況の中で働く一労働者としてよりよい環境を創ろうと

   している当事者視点から、その状況を言語化していく作業などを行った。

  ③「共創」のダイナミズム・場・人間探究

   4月19日、研究会としてではなく、その準備として、延命寺で行ってきた「てらたん講座」とは何

   だったのかを振り返り、検証の対話の録音を行った。 

  ④「共創」的実践と経済活動

   7回(4/16、5/21、6/25、7/23、9/4、10/24、11/24)、千葉県松戸市「共創ラボ」と群馬県嬬恋村

   の山荘を会場に、都市近郊において、「共創」を基盤とする活動と経済活動が成り立つ方策につ

   いて、様々な角度から討論した。

(2)上記4つ以外で本年度に生まれた動き

   ①杉並区の「治療室アーツ」の鍼灸師と共同で、現代社会における「治療」、専門家の役割につ

    いて等をテーマに9月から月1回の学習会を治療室で開始した。 

   ②作業療法士で湘南医療大学助教の西野由希子さんと、医療や福祉の援助論が近代的個人概念に

    立脚することによる課題の検証、現代の社会課題(行き過ぎた個人化等)を踏まえ、日本的風

    土にあった援助論の構築にむけた共同研究を開始。

   ③共同研究や研究会の実施には至らなかったが、研究会メンバーから、住民と専門家との共創の

    実践の課題や、厚労省が打ち出した「地域共生社会構想」における専門家とボランティアの役

    割について、個別に相談を受け検討する機会があった。

2.事例調査

(1)水俣、福島における実践活動の調査

水俣では、4月訪問時に水俣病センター相思社(以下、相思社)のスタッフの計らいで様々な現地団体につながることができ、当初の計画をはるかに上回る様々な立場からのお話を聞くことができた。第2回目訪問時は、当初予定していなかったアンケート調査を実施することができた。飯舘村視察でも、今直面している課題についてパーソナルな課題も含め詳しい話しを聞くことができた。いのちと暮らしを守るソーシャルワーク理論の構築をするための現地調査を、無事終えることができた。

 調査日程は以下の通り。

①水俣フィールドワーク(第1回):4/30相思社訪問、考証館見学、シンポジウム「水俣病の医療と介護の問題について考える」に参加、5/1 乙女塚で慰霊祭に参列、みんなの家で開かれた患者会主催の茶話会に参加、

②水俣フィールドワーク(第2回):7/26 乙女塚訪問、企業組合エコネットみなまた見学、熊本学園大学水俣学現地センター花田教授訪問・聞き取り、7/28〜30相思社と星槎大学の共同プログラムであるESDをテーマとした教員免許更新講習会へ聴講生として参加・参加者(教員)へのアンケート調査を実施、7/30 NPO法人はまちどりスタッフへの聞き取り、8/1相思社スタッフ・インタビュー

③福島フィールドワーク(飯舘村):10/1 震災以降、までいな対話の会を設立し会長を務め、村民救済申立団の事務局を担い、Weltgeist Fukushima (震災後、福島県で初めて草の根で創刊された総合雑誌)のライターとしても活動している飯舘村出身の酒井政明さんの案内で飯舘村を視察。

④11/23「飯舘村の母ちゃんたち、土とともに」上映会・飯舘村村民菅野榮子さん菅野哲さんの講演会(群馬県嬬恋村で開催)に参加

(2)千葉県松戸市の「松戸あんしん電話協議会」への参与観察

推進委員として、「松戸あんしん電話協議会」が、住民主体の活動を持続可能にしていくために法人格を取得する方策を選び、一般社団法人「あんしん地域見守りネット」を立ち上げるプロセスに関わり、そのプロセスを検証し、「高齢社会における住民主体のまちづくりの調査研究〜住民主体活動による「あんしん電話」導入事例の検証を通して〜」(公益財団法人ニッセイ聖隷健康福祉財団研究助成)を共同執筆した。また、参与観察から得た知見を、社会デザイン研究所「看取りと弔いの社会デザイン研究会」で発表した(9/28)。

3. 実践的研究

 「東京縁坐舞台の一味」、「地蔵の会」の活動では、共通の思いを持った者たちが、「思いを形にしていく」というプロセスを創っていくことができた。これまでに存在しなかった場(稽古の場、円坐、てらたん塾など)が開かれ、関心を持った者たちが開かれた場に参加し、その参加者たちの存在とあり方が企画者を刺激し、活動のプロセスや具体的な場が形づくられていく、というダイナミックなプロセスが展開している。始まったばかりではあるが、社会の中にこのような具体的なプロセスが創られ、具体的な場が開かれていっていること、さらに、それらを記録することができたことは、成果と

いえるのではないかと思う。

 嬬恋「共創」プロジェクトでは、今年度はプロジェクト内容に関心を持ち続け再訪問してくれたリピーターと共同作業をすることができた。プロジェクトの趣旨に理解のあるリピーターと実際の運営に関する意見交換をする場面も増えてきたことが今年度の成果といえる。

【課題】

 この1年は、「人は、自分の人生の当事者にしかなれない」という言葉を拠り所にして社会デザインにおける「共創」を中心に据えた研究活動のあり方を模索してきた。研究会の開催方法を大幅に見直し、実践に身を置くことを研究活動の一環として捉え、その記録をとってきた。

今年度はデータ収集に専念する結果となったが、現時点で、活発に展開していった研究活動の例(研究会活動における②と④や、「縁坐舞台の一味」や「地蔵の会」の実践的研究活動)に共通することからいえることは、活発に展開した研究活動では、自らが持つ「葛藤」や「テーマを素通りできない理由」を言語化していく作業ができる環境があったということである。または、共に、そのような場を創っていくことができたということである。「葛藤」や「素通りできない理由」を言葉にしていく時、自分の生きてきた歴史までさかのぼってその理由を語るような場面がでてくる。それは、語っている人の当事者性があらわになる場面でもある。参画者同士が普段の日常会話では出会えない次元で出会い直し、その次元で共感や承認をし合うことが、活動継続の原動力となっていたといえる。このような力動はこれまでの筆者の実践でも何度も目撃してきたことであるが、これらのことから、「自分史を他者と共に振り返る機会のある研究活動」というものが、「共創」をベースにした研究活動には必須であるといるかもしれない。

 今後の課題は、現在、手元にある膨大な量の音声データや日誌などの記録、映像を分析可能な状態に整理し、今挙げた仮説の検証も含め、社会の中に新たに具体的な「プロセス」を創り出していく研究のあり方を明らかにしていくことである。

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