ここでは、合同会社共創ラボ代表 谷口起代が行っている研究活動の一部をご紹介します。
〈背景と概要〉 共創研究会@社会デザイン研究所 これまで執筆した論文、書籍、報告書など
My Research concept : Brief Sketch
理不尽なことが起こっていても、それをどうすることもできなかったり、または、身近な人がそのことで苦しんでいたり、自分自身がその苦しさのまっただ中に置かれたり。生きていれば、そのようなことに遭遇することは避けられないことかもしれません。でも、私が研究活動を行っている背景には、そんな時に「そういうものだよ」と冷めた構えで通り過ぎてしまわずに、どのような理不尽ことが起ころうが、それが社会の構造的な問題に由来していて一人の力ではどうするここともできないことであろうが、または、生まれながらに持っている病や障害や貧困といったことがあろうが、この世に生を受けた一人ひとりが尊厳ある生を全うすることができる道を見いだしたいという思いがあります。
特に、私の関心は、「障害」「病」「社会的不適応」「死」といった近現代において周縁化されてきた事柄、スティグマとして扱われてきた事柄との関係を取り戻すことです。そうすることで、どんな事情があろうとも、そのままに、誰もが「おのずから」のままに生きられる社会が創られていく可能性が拡がるのではないかと思っています。
そんな思いを背景に持ちながら、「人が躍動する時」に着目して研究をしています。人は、いつ、どんな条件下で、動きだすのか。滞った状態に風穴が開くのはどんな時か。これまで見いだしてきたいくつかの原理としては、人は一人では動き出すことはほとんどないのだということ。意志の力は普段信じられているほどに、強くはないということ。ずっと『停滞』していた状態から『動き』が生まれる時、その背景には、それを生み出す関係があるということ。
だから、私の研究では、関係性が要となる「共創」がキーワードです。「共創」から生まれる「躍動」に着目し、躍動の源泉を、そして、躍動のメカニズムや条件を、可視化することや言語化する。それと同時に、人々が躍動する状態を生み出すしくみやシステムを構築するにはどうしたらよいかを、私自身のフリーランスのソーシャルワーカーとしての実践を検証しながら、探究しています。
【現在取り組んでいる具体的なテーマ】
・コミュニティヘルスにおける「非日常」空間の創出とその手法に関する研究
・「共創する身体(からだ)」づくり≒コミュニティヘルスを促進する人材育成プログラム開発
・コミュニティづくりにおけるソーシャルワークと心理療法の統合
・西洋近代的パラダイムを補完しつつ超える、「いのちと暮らしを守るソーシャルワーク」 の理論構築
・「共創」の場のダイナミズムの解明
・現代の私たちの生活の実感覚に合う「祈り」や「信仰」のカタチの言語化
〈学術領域における歩み〉
B.A. (Bachelor of Art) : University of Toronto, Faculty of Arts and Science, Psychoanalytic Thought Program (Interdisciplinary course) 1993-1998.
MPH (Master of Public Health) : 筑波大学大学院人間総合科学研究科フロンティア医科学専攻 修士課程 2009-2011.
DBA (Doctor of Business in Social Design) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科比較組織ネットワーク学専攻 博士後期課程 2011-2015.
研究の概要 & 背景にある思い
2015年に書き上げた博士論文では、「健康に生きる」とはどういうことなのか、という問いに対するアプローチとして、ヘルスプロモーションを、「広義の『健康』――日常生活の資源となり得る健康――に向かってローカルな世界からはじまる社会の改革に向けた運動」と捉え直し、ヘルスプロモーションの核となる概念として「共創」理論の構築を試み、「健康」を関係概念として捉えることを提案しました。障害を持つ者や路上生活をおくる者と共に、彼らと共に生きる世界を創造している「共創」の実践事例から、誰もが安心して暮らせる社会を目指すヘルスプロモーションには、「労働力商品」としての価値がなくなることを怯えなくてもよい、自らが共に生きる世界を創出していくことが重要であることを示しました。
健康教育や受動喫煙防止、通い場の創出などがメインを占める従来のヘルスプロモーション研究からは相当異質なヘルスプロモーションの研究となりましたが、保健医療従事者を中心としたヘルスプロモーションの限界を超えていく必要性は十分に認識されている今日、実践に基づき実践に返していけるヘルスプロモーションの思想的研究 が存在する意義はあると思っています。また、ヘルスプロモーションの実践において、人間を関係概念から捉えることで打開できる課題は決して少なくないだろうと思います。論文は荒削りでまだまだ洗練させる必要があることは承知の上ですが、現時点での私の精一杯を書き込んだものです。よろしかったら、ごらん下さい。
タイトル:「共創」概念の研究ーヘルスプロモーションの思想と実践
"Co-creation" as the Fundamental Concept to the Construction of
Thoughts and Practices of Health Promotion
博士論文へリンク
博士論文
On-going Research Projects
現在行っている研究活動
2015年6月から立教大学の社会デザイン研究所 研究員として、研究活動を開始。
■共創研究会の開催
2015年12月
「共創」の実践と概念化の推進を目的に共創研究会をスタート。
2016年 月1回、「共創」をテーマにメンバーからの話題提供を
受けてグループディスカッション。
2017年 分野・関心別の小グループごとに研究会を開催。
この研究会活動自体を「共創」の実践と位置づけ、グル
ープごとの研究会は、定期開催を前提とせず、グループ
内に生じた内発的な動きに従って、次回のテーマや開催
の是非を決定する方式で開催。
■分野・関心別グループ
① 障害、高齢、貧困との共創
② 企業社会の課題、葛藤
③「共創」のダイナミズム・場・人間探究
④「共創」的実践と経済活動
⑤ 上記以外
2018年 分野・関心別グループごとに研究会を開催(9回)
共創研究会から、①「場」と「支援」探究会(仙台)、
②企業社会に身を置きながら暮らしにおける関係性を創る
者たちの「当事者研究」を研究する(仮称)共創研・企業
社会系グループ、③延命寺を拠点としたコミュニティづくり
ネットワーク が生まれた。
2019年 2018年度同様、①、②、③のグループごとに活動。
立教大学では、共創研企業社会グループでの実践的研究
(共創する身体づくり講座の体験)がスタート。
その成果発表を兼ねて以下2回の拡大研究会を開催。
・2019年7月5日 「暮らしの中のスピリチュアリティ」
・2019年12月19日 「当事者経験から立ち上げた『はたらく
世代の介護をつなぐ』場づくりについて」
■ リレーショナル・ヘルス研究会に改名
2020年
研究会名称を「リレーショナル・ヘルス研究会」に変更。
「共に生きる関係の中にある健康」を体感する場として、体験型
(ワークショップ型)研究会を開催していく予定であったがコロナ禍に
より計画を変更。以下のとおりオンラインによる対話型研究会を開催。
・11月19日(木)内山節先生を囲んで
タイトル:「コミュニティづくりと身体性ー心理療法の功罪を考える
〜現代日本社会におけるスピリチュアリティの・・・な現実〜」
・12月9日(水)玉置妙憂さんを囲んで
タイトル:「コロナ禍のスピリチュアルケアの現場から、
暮らしの中のスピリチュアリティを考える」
社会デザイン研究所での研究
2021 年
「オンライン研究会2021-2022 シリーズ:非日常と日常が出遭う処(ところ)」
内容:対人支援の専門職(有国家資格者)で、「非日常空間」で科学的には証明しがたい事象(プロセスワーク、システミb
ック・コンステレーション、霊気、自然療法等)が、対人支援において、人が健康やウェルネスに向かう行動変容を促すこ とにおいて、極めて重要な役割を果たしうることを体験上知りながら、それらを制度内のプラクティスに活かすことの困難 を体験し葛藤し探求し続けてきた10名程に声をかけてスタートした。このような研究会が成立する背景には、保健医療福祉
制度が設計上、個人の健康を単位とし、エビデンス重視であるがゆえに、真に利用者(患者、クライアント)が必要として いるものを制限内(保健診療や福祉サービス)では提供しがたく、そのことの重要性についても十分に理解を得がたいとい
うジレンマがある。そこで、リレーショナル・ヘルス研究会では、「非日常空間」を保健医療福祉領域の実践において「ど
う健全に創出し得るのか」や「どんな場面でどう説明や意義を紹介し得るのか」というを、研究会のメンバーが順に話題提
供者として登壇し、体験から得た洞察や課題を共有し合いながら探求し、ヘルス領域において「非日常空間」の必要性や意
義を他の専門職に広く共有しうる適切な言葉を生み出していくことを目指すこととした。
(1)第1回 :「『ファミリー・コンステレーション』と日常の出遭う処」
日時:11月11日(木)19:00-21:30 オンライン(ZOOM)
発表者:門廣真紀氏(精神障害者日中活動の場「ポリフォニー」勤務)
作業療法士 コンステレーション歴20年
参加者:14人
(2)第2回:「『プロセスワーク』と日常の出遭う処」
日時:12月9日(木)19:00-21:30 オンライン(ZOOM)
発表者:田中保子氏(地域包括支援センター勤務)
社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、認定プロセスワーカー
参加者:12人
2022年
非日常空間の創出の実践活動から出た問いー既存の組織宗教が提供する「非日常空間」とこころの専門家が創る「非日常空
間にはどのような違いと共通項があるのかーを探求することを優先し、研究会の定期開催は一旦停止。研究計画を再考する
ためコアメンバーでのブレストを行い、宗教や信仰、祈りと心理支援が交差する領域で実践を行っている者を訪ね、活動を
視察し意見交換を行った。
〈視察調査〉
(1)4月20日〜22日 沖縄県南城市
沖縄県南城市で活動するモンゴル人シャーマンのUriyanghai Murun氏を訪問、オリジナルプログラムとして提供を
開始した自然リトリートに参加。シャーマンの活動と心理支援や地域づくりとの折り合い点、注意点などについ
て意見交換。
(2)6月24日〜27日 長野県飯山市
長野県飯山市の小菅山で、長年途絶えていた山伏修行を復活する等の活動をしている株式会社みずほラボの大槻
令奈氏と小菅集落にオープンラボを開いている一般社団法人未来社会推進機構の出澤俊明氏を訪問。小菅山の山
伏修行の工程を実際に辿り、企画運営について聞き取り、霊性を扱う時の注意点等について意見交換。
(3)11月27日〜29日 福島県いわき市および双葉郡
研究会メンバーの谷澤春美氏と、福島県いわき市および双葉郡を訪問、被災者のこころに寄り添った活動をして
いる活動者からの聞き取り調査等を行う。
(訪問場所:木戸の交民家、一般社団法人AFW、廃炉資料館、東日本大震災・原子力災害伝承館、原子力災害考
証館Furusato、菩薩院(いわき未来会議の事務局))
(4)12月12日 東京都港区
港区神谷町にある光明寺の境内でオープンテラスを開催している木原健氏を訪ね、テラスやコワーキングスペース
を視察。寺の役割について等意見交換。



2016年11月
主指導教授だった内山先生に
参上いただいた共創研の帰り道
Past Research Projects
これまでに執筆した論文・報告書および講演・発表など
■ 論文・研究実践報告書
・「他者と共に生きる」関係構築に向かった「共創する身体」づくり講座ーコミュニティヘルスを促進する人材育成プログラム開発に向けて−,
(Social Design Review Vol.11 2020年)⇒リンク
・2015年度研究助成報告:東日本大震災および原発事故を契機に生まれた『共創』的実践活動の調査〜震災・原発事故からの社会の再建にむ
かうヘルスプロモーションの理論構築にむけて〜, 2019, 非営利協同総合研究所いのちとくらし No.68, pp.46-56
・生活困難状況にある者との「共創」の基盤となる生命観の研究~近代的個人概念に立脚した人権の保障に基づくソーシャルワークを超える、
「いのちと暮らし」を守るソーシャルワークの理論構築に向けて~ (公益財団法人上廣倫理財団 2017年度助成)
・豊かな高齢社会システムづくり実践的研究(ニッセイ聖隷健康福祉財団2016年度助成 NPO法人CoCoT受託)
・第2次調査 「地域の多様性を活かした高齢社会におけるまちづくりの方策の検討ー松戸市の地域見守り活動を事例としてー」2016年10月
・第3次調査 「高齢社会における住民主体のまちづくりの調査研究ー「あんしん電話」導入事例の検証を通してー」2017年10月
・第4次調査「高齢社会における公共性の高い福祉サービス事業「あんしん電話」の包括的調査研究」2019年11月
・高齢社会における都市近郊のコミュニティ形成の可能性から千葉県松戸市A町会の見守り活動におけるボランティア継続要因の分析から
2016, Social Design Review Vol.8 pp
・孤独死予防にむけた独居高齢者見守り訪問活動における新規ボランティアの継続要因の分析(太陽生命厚生財団 2015年度助成)
・博士論文 「共創」概念の研究~ヘルスプロモーションの思想と実践, 2015
・災害時における社会資源の考察-「被災地障がい者センターみやぎ」の事例から, 2012, Social Design Review Vol.4 pp.101-111
■ 翻訳書
・いのちの営み、ありのままに認めて (2016) (2005年出版※絶版となった「脱サイコセラピー論」の復刻版
・実証研究:ストレス軽減におけるスリーインワン・コンセプツの有効性 (2009)
・ファミリー・コンステレーション創始者バート・へリンガーの脱サイコセラピー論 (2005)※絶版になってます。
■ 活動報告書
・コミュニティ活動における「共創」の類型化の試み (2015)立教大学学術推進特別重要資金採択
・東日本大震災被災者および避難者の孤立化を防ぐコーディネーション事例の研究 (2014)立教大学学術推進特別重要資金採択
・3.11後のコミュニティづくりに向けてつながる―NPO法人CoCoT 円居の場を通したコーディネーションの記録(2013)
・活動が生まれる「場」をつくる―NPO法人CoCoT 復興につながる場づくりの記録 (2013)
■ 講演・研究発表
・地域における心理支援「システム論的アプローチの視座」 一般社団法人こころのみらい 令和3年度公認心理師現任者講習会
・健康って何だろう?〜生きる居場所づくるから「健康」のカタチを考える〜 ユニコムぷらざさがみはら 市民・大学交流会 2018.9.26
・「正しさに居つく」をしない活動の地平を求めて @青砥やくじん延命寺寺子屋自主ゼミ 2018.05.13
・心理療法における技術と場(フィールド)の関係について@青砥やくじん延命寺寺子屋自主ゼミ 2016.07.02
・"Co-creation" as the Key to the Enhancement of Health in the Post-Industrialized Japanese Society
@ Indonesia, Satya Wacana Christian University 2015.09.09
@ Soegijapranata Catholic University 2015.09.08
@ Dhyana Pura University 2015.09.15
・家族内殺人の実態把握に向けた法医学データの疫学的分析―日本とドイツの比較から 第69回日本公衆衛生学会総会 2010.10.27
・バンクーバー市におけるメンタルヘルスサービス:コミュニティ・チームケアの仕組みとアドボカシー事業@やどかりサロン(やどかりの
里)2005






