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2018年度 研究報告 (立教大学社会デザイン研究所)

「共創」のプラットフォームづくり実践的研究

ー都市圏におけるコミュニティ(親密圏)再構築の試みとしてー

 

 

 

【 概 要 】

 地域における人々のつながりを再構築し、「誰もが住み慣れた地域で、生きがいをもって暮らし、共に支え合う社会」を目指すとして厚生労働省が地域共生社会構想を打ち出してから2年が経過した。地域福祉やまちづくりの領域では、「支え合うつながり」の構築にむけて、様々な取り組みが試みられている。しかし、個人化が進み将来設計に対する不安が蔓延している現代の社会には、個人を、身近な他者と支え合う関係へと誘う力よりも、個々が個別に「生き延び」のために自己防衛的な策を講じることへ向かわせる力が強く働き、支え合う関係づくりは困難に直面している。また、物質的な豊かさと便利さを追求してきた現代社会は、ADL(日常生活動作)に支障がなければ一人でも生きられる生活様式を獲得してきたこともあって、特に都市近郊では、あえて能動的につながりを求めて動くことをしなければ、人は、簡単に孤立化する。孤立化の末の孤立死、無縁死が切実な社会課題となっている。この現状から目を反らさずに、都市圏におけるコミュニティ再構築という課題に直面するのであれば、私たちは、既に、人生の終着点までをも共に生きられる関係をいかに紡いでいくのかという問いに、正面から取り組まざるを得ない状況にある。例えばそれは、現存する趣味のサークルやボランティアグループ、定期的に集い団欒す

るゆるやかなコミュニティにおけるゲゼルシャフト的なつながりは、心身ともに健康でなくなった時には脆く、そのつながりは失われがちであるが、これらのゆるやかなコミュニティから一段階親密な関係、すなわち、地縁・血縁によらない親密圏を真に構築していけるのかが問われている。そこで本研究では、様々な研究実践活動を通じて、より親密な関係の構築を模索した。 

 昨年度までの研究実践活動において様々な「場」づくりを行ってきた結果、参画者同士が普段の日常会話では出会えない一段階深い次元で出会い直し、その次元で共感し承認し合うことが、活動継続の原動力となっていることが明らかとなった。その過程において、「場」が内発的に発展するかどうかの鍵は、「当事者性」にあることを発見した。本年度は、この発見をもとに、「すでに当事者である事柄から、いかにして社会課題との関わりを見い出し、自らが共に生きる世界を構築していけるのか」ということをより意識して活動を進めた。その結果、企業社会に身を置きながら暮らしにおける関係性を創ることにむかう者たちの学びの場、地域福祉や支援領域で生きる者たちの学びの場、お寺を拠点にしたコミュニティづくりに関心のある者たちの集いのネットワークといった、「共創」のプラットフォームづくりが始まった。また、これらの研究と実践活動の経過を、インドネシアの大学を始め、様々な場所で共有し発表する機会を得た。

 

 

 

【活動内容】

 

1. 研究会活動(共創研究会)

 以下のようなテーマで研究会を開催した。開催場所はメンバーの活動の場も採用した。

 (立)=立教大学 

 (仙)=仙台市内、障害福祉施設とコミュニティスペース

 (葛)=東京都葛飾区の集い交流館

 (小)=小田原市 古民家レストラン

 

 研究会開催記録 (日時、場所、テーマ)

  1/18(立) 近代西洋的パラダイムを超えた作業療法のあり方について 

  3/4 (仙) これからの社会活動 〜二元論を超える旅路〜

  4/15(葛) 都市近郊に住む者の暮らしに根づいた祈りの場と寺の役割 ※

  6/28(小) 個人の作業療法から、共に生きていくための作業療法 ※

  7/22(立) 企業社会に身を置く者たちの「共創」の可能性

  10/25(立) 当事者研究とは(1)

  11/29(立) 当事者研究とは(2)企業で働く者たちへの応用するには

  12/1 (仙) 自立・自己実現を支える支援VS共に生きることを支える場

  12/23(葛) 企業社会に身を置くものたちの共創のプラットフォームとは

       ※は、研究実践活動のためのミーティングとして開催

                                                

   

2.研究助成を受けておこなっている研究

 

(1)「生活困難状況にある者との『共創』の基盤となる生命観の探究―近代的個人概念に立脚した人権の保障 

    に基づくソーシャルワークを超える『いのちと暮らし』を守るソーシャルワークの理論構築にむけて―」

   (公益財団法人上廣倫理財団平成28年度研究助成 個人研究)

 

   「いのちと暮らし」を守る活動が活発に行われている水俣と福島へのフィールドワークをもとに、「いのち

   と暮らし」を守るソーシャルワークの理論構築に向けた研究を行っている。本年度は、水俣を再訪し、下記

   の史跡や活動団体を訪問した他、50年以上の活動実績を持つ方々から詳細な聞き取りを行った。

 

   11月23日〜25日 訪問先(わっぱの会のスタディツアー):

   エコネット水俣、チッソ水俣工場前、百間排水溝、親水護岸、実生の森、乙女塚(砂田エミ子氏)、ガイア

   みなまた(高倉史朗氏)、水俣病歴史考証館、水俣病患者家庭果樹同志会(佐藤英樹氏)、遠見の家(坂本

   しのぶ氏)、水俣病資料館、ほっとはうす(半永一光氏)、やうちブラザーズ、からたち(大澤菜穗氏)、

   漁船クルーズ。

 

(2)「高齢社会における公共性の高い福祉サービス事業『あんしん電話』の包括的調査研究〜松戸市全域・特に

    常盤平地区を事例として〜」

   (公益財団法人ニッセイ聖隷健康福祉財団豊かな高齢社会システムづくり実践的研究事業委託事業 NPO法

    人CoCoT受託 主研究者として参加)

 

   千葉県松戸市で、自動電話「あんしん電話」をツールとした住民主体の地域見守り活動を推進する一般社団

   法人「あんしん地域見守りネット」の月1回の運営会議への参加。住民(町会やNPO)の主体的でボランタリーな見守り活動から生まれたこのサービスを、行政、保健医療福祉の専門職、企業との連携のもと、いかに安定的で持続可能なシステムとして供給することが可能か、その方策づくりに関わった。これまでの活動プロセスの検証と分析を行い、今後の展望を中間報告としてまとめた。

 

 

3. 実践的研究

 

 (1)「地蔵の会」の活動 

    葛飾区青戸やくじん延命寺を拠点にした、お寺を現代社会の都会に暮らす者の現実にあった祈りを持ち込

   める場として地域に開いていく活動。定期開催しているイベントとして、月1回の本堂での円坐、てらたん塾

   (てらたん=寺で胆力をつける)を運営している。また、副住職が開催している寺子屋の運営をサポートし

   ている。

    3年目にあたる本年は、新たな取り組みとして、3つの場(円坐、てらたん塾、寺子屋)の参加者と共に、

   年末に「謝恩の坐」という集いを開いた。地蔵の会が開催する場への参加者の年齢層は30代〜60代と幅広

   く、地域における世代間の交流の場としても機能し始めている。また、参加者からは、「はじめての人でも

   不思議とここでは、くつろいで素のままで出会える」、「ふだんは隠している顔を見せられる」、「(都合

   がつかず)場に参加できなくても、場が開かれていることを思い出すだけで気持ちが整理される」といった

   フィードバックがあり、この場が孤立しがちな都市生活者にとって精神的な拠り所となり親密な関係を築く

   ことが出来る場となっていることが伝わってきている。

 

(2)嬬恋「共創」プロジェクト

    都市近郊に住む者が、心の危機や生活上の危機(自然災害等)の時に行ける場所を、群馬県嬬恋村在住の

   建築家の協力を得ながら賛同者と共に創るプロジェクト。4年目の本年度は、賛同者(リピーター)13名、新

   規訪問者16名であった。本年度は、賛同者の協力のもとホームページが完成し、夏には3つの合宿を開催

   することができた。将来的には、貧困等様々な理由から旅行に行く機会のない子供たちが自然体験をするこ

   とができる宿泊設備を整備し、寄付をはじめとする「志金」で運営していくしくみの構築を目指している

   が、賛同者との間で、それに向かった具体的な意見交換をする場を持つことができた。

 

  

 

【 成 果 】

1.研究実践活動から、地域における親密圏の構築に取り組む、以下3つの具体的なプラットフォームが生まれ、

       継続して活動していくこととなった。

 

(1)「場」と「支援」探究会(仙台市)−−−地域福祉や支援領域で活動する者達の実践的な学びの場

(2)企業社会に身を置きながら暮らしにおける関係性を創ることに向かう者たちの「当事者研究」を研究する場

   (仮称 共創研 企業社会系グループ)

(3)青戸やくじん延命寺、地蔵の会の活動に連なり、寺を拠点としたコミュニティづくりに関心のある者たちの

   ネットワーク (次年度に名称を決定、コミュニティづくりに向けた意見交換の場を開催予定)

 

  

2.研究成果の発表

 

(1)障害学会第15回大会 2018年11月17日〜18日 於:クリエイト浜松「当事者の生きやすさを

 追求する共にある場」をつくる作業的要素―わっぱの会と当事者研究会の取り組みの比較検討からの一考察―」

 

 作業療法士の、田島明子氏(聖隷クリストファー大学)と西野由希子氏(湘南医療大学)と、医療や福祉の援助

 論が近代的個人概念に立脚することによる課題の検証および日本的風土にあった援助論の構築にむけた共同研究

 の結果をポスター発表

 

(2)インドネシアSoegijapranata Catholic University, Semaran, にてゲストレクチャー 2018年2月19日

 “A Brief Summary of Japan’s Experience of Health/Social Welfare System and Arise of “Co-creation” Movements”

 

(3)ユニコムプラザさがみはら 市民・大学交流会 9月26日 にて講演

  「健康って何だろう? 〜生きる居場所づくりから「健康」のカタチを考える〜」

 

(4)青戸やくじん延命寺 寺子屋ゼミにて発表 2018年5月13日

  「正しさに『居つく』をしない活動の地平を求めて〜「東日本大震災の障害者は今」の問題提起への応答として〜

 

【 課 題 】

 

1.「共創」のプラットフォームづくりを担う主体の組織体制づくり

  社会デザイン研究所に属し、〈ソーシャルデザイナー〉として「共創」をテーマに場づくりの実践と研究を開

 始して4年目となるが、これまでが、「共創」のプラットフォームの精神的土壌の醸成期であったとするなら、 

 「成果」1で記述したように、具体的なプラットフォームが生まれるなど、試行錯誤しながらも種をまいてきた

 ものが、様々な「場」で芽を出し始めた時期にきていると感じている。次なる段階における課題は、コミュニテ

 ィ(親密圏)の構築に向かって各々の場で芽を出し始めた可能性を、具体的に社会に根付かせ発展させていける

 よう、そのプロセスを梃子入れする主体を明確に組織化し体制を築くことであろう。次年度はその組織体制づく

 りに取り組みたい。

 

 

2.学術的なアウトプット

  今年度は、仙台での探究会が立ち上がる等の予定外の展開があり、実践に力点を置く結果となった。実践で見

 いだしてきた事柄は、スライド資料を作成して講座や研究会で共有するなど小さな場ではアウトプットしてきた

 が、充分に活かすことができなかった。次年度は、これらを論文や報告書、ウェブサイトなどを通して発表して

 いくことに取り組みたい。

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